【状況説明】
 惣流家のアスカ(中学二年生)と渚家の双子の兄弟(中学三年生)はお隣さんな幼馴染みである。
 ともに親の帰りが遅いため、夕刻は大抵どちらかの家で過ごしている。

 さーて、今日の出来事は?



恋したってよくなんかない




「……僕達、今日誕生日なんだけど?」
「だから何?」

 不服そうに眉を吊り上げる双子の弟に、アスカは冷ややかな笑みを返す。兄の方はというと二人の遣り取りを尻目に、いつものにこやかな笑顔でテーブルに御馳走を並べていた。生活時間帯が噛み合わなくともせめて息子達のためにと、彼らの親が手作りして残していった料理である。

「何、じゃないよ。タダでありつくつもり?」
「そうよねぇ、おば様の料理はお金を取って人が呼べるくらいの美味しさだもの。近いうちにきちんと日頃のお返しをさせていただかないとね」
「……僕達には?」
「あー、はいはい、忘れてたわ。誕生日おめでとう。これでいい? 渚弟」
「誠意が篭ってないよ、惣流」

 バチバチと火花を散らしそうな勢いで睨み合う二人。一方、テーブルでは着々とセッティングが進められている。
 ちなみに『弟』が下の名前なわけでは勿論ない。本名は本名として存在する。アスカが呼ぼうとしないだけだ。
 昔は名前で呼び合ったものだが、いつの頃からかそれが恥ずかしくなって彼女が『渚兄』『渚弟』と言い始めると、弟の側も張り合うようにして『惣流』と呼び出した。しかし兄は相変わらず、彼女に嫌な顔をされようとかまわず『アスカ』呼びである。
 それはさておき、いがみ合いはますますヒートアップしていく。

「はっきり言わなきゃ分からないなら言ってあげるよ。プレゼントくれる? あるんだろ?」
「勝手に決め付けないでよねぇ。いいじゃない、今年からはやめても。こうして顔を出してやっているだけありがたいと思いなさいよ。他に祝ってくれる女の子なんていないくせに」
「それこそ決め付けだね。プレゼントなら色々貰っているんだ、単に君が知らないだけで」
「だったら尚更、私があげる必要なんてないんじゃなーい?」
「――古人曰く」

 突然兄に口を挟まれて、二人はそれぞれ、満面に笑みを湛えた彼に目を向ける。

「『押して駄目なら引いてみろ』――アスカ、わざわざ祝いに来てくれてありがとう。だけど忙しい君をいつまでも引き止めておくのは悪いよね。僕達二人だけでささやかな宴を催すことにするから、君は家に帰って自由な時間を過ごすといいよ」
「え?」

 予想外の申し出にアスカの目が点になる。よくよく見ればテーブルには彼女の分の食器が出されていない。
 こちらも一瞬呆気に取られた弟だったが、兄の意図するところをすぐに察してそっくりな笑い顔を作った。

「あぁ、そうか、宿題があるって言ってたものね。早く帰りたがっていたことに気付かなくて悪かったよ、惣流。こっちは僕達だけでやるから、君はもう帰りなよ」
「え? え?」
「でも帰っても食べる物がないよね? このサンドイッチを持っていくといい。あぁ、遠慮しないで。僕達の分は御覧の通り、他にもたくさんあるから。宿題頑張ってね、アスカ」
「え? え? え?」

 持ち込んでいたカバンとサンドイッチとを手渡され、あれよあれよという間に彼女は押し出されるようにして玄関へ連れられていく。性格は違いすぎるくせにいざ連携を取り出すと、さすが双子のコンビネーションは見事だ。

「「じゃあねー」」

 ステレオな別れの言葉だけ残してドアは閉ざされた。後には呆然と立ち尽くすアスカ一人。

「な、何よ! やけに親切じゃない! 御丁寧にどうも!」

 捨て台詞を吐いて自分の家に帰るも、してやられたという屈辱から、そのまま玄関先で叫んでジタバタと暴れ回りたくなる。しかし派手な物音を立ててしまえば彼らの思う壺、ここは何とか堪えなければ――いや、でもやっぱり、じっとしていられないくらい悔しいというか何というか、一言で言えば「ムカつく」という状態であって――
 などと彼女が靴も脱がずに葛藤しているうちに、隣家から楽器の音色が聞こえてきた。ピタリと息の合った、兄のバイオリンと弟のピアノが奏でるハッピーバースデー。
 ――アスカには分かる。これは嫌み以外の何物でもないと。

「……あぁ、もう! 戻ってやればいいんでしょ、戻ってやれば!」

 御馳走にありつくためのやむを得ない手段なのだと自らに言い聞かせ、カバンに手を突っ込む。せめてもの抵抗として兄用の青い包装紙と弟用の緑の包装紙を剥がし、中身だけ持って彼女は閉めたばかりのドアを再び開いた。





 小説目次へ   HOME



 タイトルは渡辺美里の「恋したっていいじゃない」から。執筆しながら浮かんできた曲ですが、そのままでは内容に合わないため少し(?)変えました。

 頭はほとんど使っていません。ノリだけで書きました。普通の小説のように説明を盛り込むのも放棄した、冒頭のやっつけ感にそれが溢れています。
 ラブコメとか三角関係とかいうより、Wカヲル対アスカの攻防みたいなものが書きたかったのです。もっと言ってしまえば、庵カヲ、貞カヲが同時に存在する世界のウザさのようなものが書きたかったのです。
 あまり反省はしていません(爆)。





inserted by FC2 system