【状況説明】
 惣流家のアスカ(中学二年生)と渚家の双子の兄弟(中学三年生)はお隣さんな幼馴染みである。
 ともに親の帰りが遅いため、夕刻は大抵どちらかの家で過ごしている。

 さーて、今日の出来事は?



結婚したってよくなんかない




 今日はアスカの誕生日。渚家ではお祝いのパーティーが開かれた。念のために言っておくと、惣流家の間違いではなく、渚家である。長年の家族ぐるみの付き合いの為せる業だ。
 生憎、惣流氏と渚氏は多忙のために帰宅が間に合わなかったが、双方の夫人の姿は夕食の席上にあった。共にテーブルを囲むことなど滅多になく、それだけでアスカにとっては嬉しかった。

「アスカちゃん、誕生日おめでとう。これは私とパパからのプレゼントよ」
「こっちは私達から。御馳走もたくさん作ったからどんどん食べてね」
「ありがとう、ママ! おばさま!」

 満面の笑みで受け取り、開けてみるとストールとペンダントだった。ほんの少し背伸びをしたい年頃の彼女に合わせた、大人っぽいデザイン。

「綺麗……本当にありがとう! 大事にするわ! ――で」

 打って変わって冷え冷えとした視線が他二名に注がれる。出せ、と目だけで語っていた。
 いかにも面倒くさそうに唇をひん曲げる渚家の次男。微笑を湛えながらも重くて長い溜息をつく渚家の長男。しかしそれぞれ一応箱を取り出す。

「ほら。おめでとう、惣流」
「誕生日おめでとう、アスカ」
「心の感じられる棒読みで祝ってくれて嬉しいわぁ」

 顔で笑って心で角を出して。毟り取るように受け取るや、こちらも開封すると、出てきたのは手乗りサイズのぬいぐるみの――コオロギとカマドウマ。見ようによっては愛嬌がないでもないが、キモカワイイと持て囃される域ではなく、勿論学校に持っていって自慢できるような物ではない、つまり一言で言えば「ビミョー」なデザイン。アスカの口元がどうしようもなく引き攣る。

「毎年毎年、よくもこんな中途半端に変な物ばっかり見つけてくるわね……」
「いやぁ、こう見えても苦労しているんだよ? 『フツー』と言われてしまわないように」
「そうそう。そんじょそこらでは売ってないような物を発掘してきて二つもあげてるんだから、感謝してほしいくらいだよ」
「そんじょそこらで売ってる物でいいわよ、私は!」

 かくして今年もまた、彼女の部屋の珍妙物置き場――という名前の押し入れのダンボール――に二つが仲間入りするのであった。いっそ完全なゲテモノならば心置きなく捨てられるものを、とぬいぐるみを握り締める手がプルプル震える。
 子供達の殺伐さもどこ吹く風で、母親二人は至って和やかに歓談中だ。彼女達にとっては全て日常の微笑ましい出来事なのである。子供三人も空腹状態でいつまでも皮肉の応酬など続けていられず、目の前の御馳走にありつく。舌が美味を楽しめば心の棘も抜けるもの。ようやくお祝いの席らしい温かな雰囲気となった。
 ――が。そのまま夜が終わったりは当然しない。

「こんなパーティーももしかすると今年限りかもね。来年はボーイフレンドを連れてきたりするのかしら」

 突然の母親の台詞にアスカはむせ返る。

「や、やだ、ママったら! 急に何を言い出すのよ! ボーイフレンドなんて……」
「いないの? もう十四歳なのに」
「わ、私に釣り合うような男なんてそうそういないのよ!」
「そんなことばかり言ってるとチャンスを逃がすわよ? ママだってパパと結婚するまで苦労したんだから」
「大丈夫よ、アスカちゃんならとびっきりの男を捕まえられるわ。もし上手くいかなかったとしても、いざとなったらうちの子のどちらかをあげるから大丈夫よ。ね?」

 今度は渚兄弟が母親の言い出したことに驚いた。そっくりな顔立ちが互いに向き合い、しばし無言で見つめ合う。

「……だってさ。よかったね、将来の結婚相手が決まって」
「いやいや、兄としてここは弟に譲るよ」
「遠慮しなくていいから。こういうのはやっぱり兄が先でないと」
「困ったなぁ、独身貴族も優雅で楽しそうかと思っていたのに。でもどうせなら義妹は、『お義兄さん』と呼んで慕ってくれる、おしとやかな女性が理想だな。間違っても暴力などは振るわない人さ」
「それをいうなら僕だって優しいお義姉さんがいいよ。義姉の立場を笠に着て威張り散らしたりしないような」
「では、つまり」
「うん、要するに」

 二つの笑顔がアスカを向いた。

「「君とだけは絶対に嫌、ってことさ」」

 ドゴッという鈍い音を立てて、テーブルの下のアスカの足が双子の右脛と左脛を同時に蹴る。

「こっちの台詞よ!! 黙って聞いてれば好き放題言ってくれちゃって……! 誰があんた達と結婚なんかするもんですかっ!!」

 たちまち始まる活劇を、母親二人は「あらあら」「うふふ」と眺めていた。





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 素直になれない幼馴染みもいいですが、本気でけなし合う幼馴染みもいいと思うのであります(笑)。





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